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檜から吉野杉へ。明治神宮の鳥居の建て替えについて考える

みなさんこんにちは、建築家の松本勲です。
ここ数回、木材のマメ知識をお送りしてきましたが、今回は明治神宮の「鳥居」についてお話してみたいと思います。

都心にありながら緑豊かな杜が広がる明治神宮。初詣に訪れる参拝者数が日本一と言われ、東京周辺にお住まいの方は、訪れたことのある人も多いと思います。
この明治神宮は1920年に創建されたのですが、実は木製の鳥居8基のうち3基が最近まで創建当時のまま残っていました。
それが、2020年の鎮座百年祭記念事業の一環として大規模な改修工事が行われ、老朽化が進んだ鳥居の建て替えが行われました。
創建当時の鳥居は台湾ヒノキで作られましたが、台湾からの輸入が困難になり、3基のうちの2基は2016年に国産のヒノキで建て替えられました。

残る1基は、明治神宮の南参道の入口となる原宿駅の近くに立つ第一鳥居。この第一鳥居も約100年ぶりに建て替えられ、2022年7月、竣功清祓式(しゅんこうきよばらいしき)とくぐり初め式が行われました。
この新しい鳥居の柱に使われたのが、奈良県吉野郡川上村産の吉野杉です。

木造の「明神鳥居」としては日本最大の大きさとなる第一鳥居は、高さ11メートル、笠木(一番上の横位置の木)の長さ15.6メートル、両柱の直径1.06メートル。
建て替えに当たってもサイズは全て旧鳥居と同じ規模で制作されていますが、材木は台湾檜から国産杉に変更。これまでの鳥居や他の7基は全て檜材を使っていますが、境内で唯一の杉材となりました。

先にお話したように、創建以来使用されてきた台湾檜は伐採が禁止され、国産檜でも旧鳥居を踏襲する材を探し出すことが非常に困難になりました。
第一鳥居の建て替えに当たっては、2年の歳月をかけて用材をどのようにするかが検討されたそうです。

初代の鳥居の大きさや形を引き継ぐには、長さが15m、胸高の周径が5mある木材が必要となります。15mの長さで、木の先端の方までできる限り節のない材となると、探し出すのは容易ではありません。
柱用の立木を探し出すところからスタートし、全国のさまざまな森林で現地調査が行われました。
その結果、新しい鳥居の柱は東側が樹齢280年、西側が樹齢260年の「吉野杉」、笠木は栃木県の「宇都宮材」など、島木は三重県の「美杉材」など、貫は福井県の「足羽(あすわ)材」など、国内数カ所の杉が採用されました。

川上村で候補の木が見つかったのは2014年。その年の12月、木材を最初に伐り出す「御杣始祭(みそまはじめさい)」が執り行われ、伐られた木の傷や節(ふし)の状況を確認した後、「葉枯らし」を12ヶ月かけて行ったそうです。
葉枯らしとは、木の中に大量に蓄えられた水分を抜き、また、色味を良くするため、伐採後に枝葉を残したままその場で乾燥させる方法です。

その後、吉野の山から運び出された木は山形県の宮大工の加工場に移されました。そこで、2020年までの6年の歳月をかけて乾燥と製材の作業が行われていきました。
いつもこのコーナーでもお話させていただいていますが、木材にとって「乾燥」はとても重要な工程です。樹齢200年を超えると、それだけ長い年月をかける必要があるのですね。

ところで、文化財の修復や復元に大径木を使用する際には、文化庁などは元の樹種と同じものを使うことを求めます。
しかし、もはや台湾檜の伐採は完全に禁止となっていて、日本に輸出することは不可能です。日本国内でも、大径木ヒノキはすでに枯渇しています。

そこで、今回柱として選ばれたのが樹齢250年の吉野杉。
奈良県吉野郡川上村には、樹齢200年~300年の人工林が残されていて、スギの大木がまだあります。
スギはヒノキより強度に劣ると思われがちですが、吉野杉は曲げ強度も圧縮強度も通常のスギと比べて1~2割強いそうです。
今後、ほかの鳥居も建て替えが求められるようになると思いますが、いつかすべて吉野杉の鳥居になる日が来るかもしれません。

とはいえ、吉野杉の大木もそんなに多くあるわけではありません。
神社仏閣では、ことのほか無垢の大径木を求める傾向がありますが、そのこだわりは、すでに危機的な森林資源をさらに追い詰めることにもなりかねません。
日本の山は森林が飽和状態と言われますが、それは樹齢50年程度の若年のものばかり。100年を超える成熟した大木、ましてや200年以上の超巨木は極端に減少しています。

かつて鳥居と言えばみな木製でしたが、今では少し大きなものは鉄筋コンクリート製や鉄など金属製、さらに塩化ビニール製になっています。
それはそれで寂しい気がしますし、鳥居は、やはり自然物である木製であってほしいと思う方も多いでしょう。
鳥居はどんな姿に変わっていくのか。柱が細くなったり、集成材が使われたり・・・。森林環境と資源量を考えた「新しい姿」にも注目していきたいと思います。

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