みなさんこんにちは、建築家の松本勲です。
前回こちらのコーナーで、木材の「さわり心地」の効果についてお話しましたが、今回は「木材と睡眠」についてお話したいと思います。
寝室に⽊材(⽊質系材料)が多いと不眠症の疑いが少ない──実は、そんな驚きの研究結果が発表されています。
⽊材研究の領域では⼈間が⽊材に触れた際、⾎圧や⾃律神経、脳波がどのように変化するかといった研究がなされてきました。それらの研究を通して、⽊材にはリラックス効果があることがわかってきましたが、これまで、睡眠と⽊材の関連性を指摘した研究はあまり多くありませんでした。
そんななか、2020年2⽉に国⽴研究開発法⼈森林研究・整備機構森林総合研究所(以下、森林総研)は、筑波⼤学の国際統合睡眠医科学研究機構(以下、IIIS)と産業精神医学・宇宙医学グループ、帝京⼤学との共同研究により、睡眠と⽊材との間に大きな関連があることを実証・発表しました。
その研究によると、「寝室に⽊材が多い⼈は、そうでない⼈に比べて安らぎを感じている割合が⾼く、不眠症の疑いが低いことが明らかになった」といいます。言い換えれば、寝室の⽊材・⽊質材料が、⼈間の睡眠にとって有⽤である可能性が⽰唆されたということです。
実は、⽇本⼈の睡眠不⾜による経済損失はGDP⽐の2.92%もあると⾔われています。しかもこれは世界で最悪の数字。⾦額でいえば1380億ドル(≒15兆円)にものぼり、働く人々の睡眠不⾜が深刻化しています。
にもかかわらず、具体的な対策はあまり社会に浸透してきませんでした。むしろ⽇本では、睡眠を削って働くことが美徳であるかのように語られてきました。2017年に「睡眠負債」という⾔葉が流⾏語⼤賞のトップテンに選出されるなど、少しずつそうした状況に変化の兆しは⾒えますが、まだ充分ではありません。
睡眠不⾜には、体重の増加や免疫システムの弱化、病気になりやすいなどさまざまなリスクがあります。
⽊材の何が⼈間の睡眠に影響を与えているのか、そのメカニズムまではわかっていないそうです。見た目が安⼼感を与えるのか、吸湿性や吸⾳性が優れているからなのか、⼿触りが良いからなのか、⽊材特有のぬくもりのせいなのか、あるいは香りのせいなのか。
これらの点についてはさらなる研究が求められますが、現時点で⾔えるのは、とにかく寝室に⽊材が多いと睡眠に良さそうだということです。